企業講義レビュー(トレンド体験)

第2期

日本人が“発見した”健康習慣「入浴」の驚くべき効果
半身浴を続けると、毎日200kcal余計に消費できる体になる!?

テーマ: 「入浴と入浴剤の科学」

講師:
花王 ヒューマンヘルスケア研究センター
パーソナルヘルスケア研究所 上席主任研究員
工藤道誠さん

工藤道誠さん

本格的な寒さが到来した師走に開講した第2期「トレンド体験」のテーマは「入浴」。外の寒さとは裏腹に、会場は湯屋のように受講生たちの熱気に包まれ、熱い講義が展開されました。

 第1期のテーマである「大豆」に続き、古来から日本人が親しんできた湯舟につかる習慣、「入浴」を第2期のテーマに選んだのは、血流の増加、リラックス作用、疲労回復といった誰しもが感覚的に理解している効用に加え、美肌効果、体質改善といった、現代人にとってうれしい作用が明らかになってきたから。さらに花王の最新研究では、常識を塗り替える新たな入浴効果も明らかになりつつあるようです。
 しかし、こんなに素晴らしい健康習慣にもかかわらず、特に若い人を中心に、入浴を簡単に済ます“シャワー文化”が定着しつつあります。だからこそ、「ゆっくりと湯船に浸かることの大切さを伝える必要がある」と、工藤さんはエビデンスを踏まえながら語りました。

 さあ早速、工藤さんの講義に耳を傾け、入浴の古くて新しい世界に触れてみましょう。

江戸時代に一般化した現在の入浴スタイル

 「6世紀の仏教伝来時、『汚れを落とすことは仏に仕えるものの大切な仕事である』との教えから、寺院に湯堂、浴堂と呼ばれる沐浴の施設が作られ、入浴の歴史がスタートしました。『浴槽にお湯を張り、そこに体を浸ける』という現在の入浴スタイルが一般化したのは江戸時代から。鉄砲風呂や五右衛門風呂といったスタイルの据え風呂が広まっていきました。銭湯も同時代が発祥ですが、当時は男湯・女湯の区別がなく、男女別の公衆浴場が定着したのは明治になってからです」と工藤さん。幕末に来日した欧米人もこの文化にはかなり面食らったようですが、私たち現代人もビックリです。

入浴の温熱作用、静水圧作用、浮力作用

 入浴文化の広がりに伴い、入浴の生理効果の解明も進みました。工藤さんは、温熱作用、静水圧作用、浮力作用の三つに分けて、その効果を説明します(図1)。

 まずは温熱作用について。
 「お湯の熱によって毛細血管が拡張し、温まった血液が体の深部に運ばれ、体全体が温まっていくのが温熱作用です。血管が拡張することで体液の循環も良くなり、老廃物や疲労物質を速やかに体外へ排出して疲労を回復します」。
 次に静水圧作用とは?
 「入浴の際、体にかかる圧力は約1t(大人の場合)。この静水圧により、末梢循環が改善し、お風呂上りにむくみが改善することが知られています。一般に、普通の入浴で、ウエストが3〜6cm縮まるといわれています」。
 そして浮力作用。
 「お風呂では浮力が働くので、体重は約10分の1になります。その結果、全身の筋肉の緊張が緩和され、腰、ひざなどの関節への負担も軽減されます」。

図1:入浴の生理効果

目的によって入浴方法を変えれば効果もアップ

 これらの効果をより高めるためには、目的によって入浴方法を変えることが大切だと工藤さん。「ストレスを解消したい時、安眠したい時などリラックスしたいときは40℃以下のぬるめのお湯、ひと仕事する時など、テンションを上げたいときは熱めのお湯に短時間――が効果的です。また、一番風呂は水道水に含まれる遊離塩素が刺激になるので、肌をケアしたいときは避けた方がよいでしょう」。

 半身浴の効果についても紹介されました。これは同社と北海道大学教育学研究科の大塚吉則教授との共同研究による成果です。20〜30代の健常女性10人を対象に、38〜42℃のお湯にみぞおち部分までの座位で、1回30分、週3回浸かってもらい、4週間後の末梢血流、安静時エネルギー消費量の変化を検証したもの。  その結果、「半身浴の継続によって末梢血流が増加しやすくなりました。同じ温度でも血管が開きやすくなり、循環が高まった結果だといえます。さらに、こうした入浴を続けると、安静時のエネルギー消費量、すなわち基礎代謝量が増加することが確認されました。具体的には1600kcalから1800kcal に増加したのです。つまり、半身浴を継続することにより、『黙っていても200kcal消費できる体に変化し、効率的なカロリー消費が実現できる』ということができます」(図2)。

 また、体への負担が少ない入浴法についての研究も進められています。同社と愛知医科大学第2生理学講座の菅屋潤壹教授との共同研究では、健康な男子大学生8人を対象に、40℃のお湯に全身浴で、A:15分連続入浴、B:5分入浴⇒10分休憩⇒10分入浴、C:10分入浴⇒10分休憩⇒5分入浴、を試してもらい、深部体温(食道温、鼓膜温、直腸温)、心拍数、血圧を検証。その結果、「心臓への負担を少なく効率よく体温を上げるには、Bの入浴法が最も効果的であることが確認されました」。

図2:半身浴の継続により、安静時のエネルギー消費量がアップ

炭酸泉の作用を家庭でも手軽に実現するために

 続いて、無機塩類系入浴剤が主流だった当時、炭酸ガス入浴剤という未開拓のジャンルを切り開き、入浴剤市場の拡大に貢献した『バブ』の開発秘話が紹介されました。「『バブ』の開発のヒントは天然の炭酸泉です。血管拡張作用など、炭酸泉の作用を家庭でも手軽に実現することができないかということで開発をスタートし、1983年に製品化に成功しました」。
 「炭酸ガスの効果をより高めるための技術開発も進めています。具体的には、炭酸ガスの皮膚への浸透率を高めれば、高濃度の炭酸泉と同等の効果が得られるのではないかと考え、炭酸ガスの高浸透技術とマイクロバブル化技術を開発しました」。
 こうして2010年9月に「マイクロバブ」が登場。その名の通り、泡の大きさが10〜50μmと極めて小さいので(通常のバブは 500〜1000μm)、表面積が広く、細かい泡で体を包み込んでくれます。温熱効果は、従来のバブ以上であることも確認されています。「40℃のお湯に 10分間入浴した効果を通常の『バブ』と比べた場合、『マイクロバブ』は入浴5分後に皮膚の血流量が顕著に増加、深部体温が効率よく上昇し、発汗量が増加するなど、1回の入浴でも温まりを十分に実感できることが確認されました。(図3)。

図3:入浴後5分で皮膚の血流量及び深部体温を高める「マイクロバブ」

データ提供:花王
※超微細発砲入浴剤は「マイクロバブ」、錠剤タイプ入浴剤は「バブ」を使用

科学界の常識を覆した「マイクロバブ」

 さらに、「マイクロバブ」を継続使用すると、驚くべき生理作用をもたらすことも分かってきました。そのキーワードが「暑熱順化(しょねつじゅんか)」。これは繰り返し暑熱にさらされることによって暑さに適応した体に変化すること。「例えば、夏場の暑くなり始めの1週間くらいは暑さをきつく感じますが、この時期を過ぎると意外に体が慣れてきます。これは季節性の暑熱順化で、熱を早く放散、つまり発汗機能が高まることで、同じ暑さでも体温調節がしやすくなった結果です」。

 人工的に暑熱順化を起こさせる研究も進んでいます。「これまでは、体温を38℃に上げた状態で1日90分間、7〜10日間暴露する、42〜43℃のお湯に1日約1〜2時間、7〜20日間入浴するなど、過酷な条件が必要だとされ、通常のリラックスを目的とした入浴で暑熱順化を起こすのは、ほとんど不可能と考えられていました」。
 ところが、マイクロバブを2週間継続使用してもらった結果、暑熱順化が起きている可能性が示唆されたといいます。「マイクロバブとさら湯でそれぞれ、 40℃のお湯で1回10分間、2週間入浴してもらった結果、同じ体温でもマイクロバブを使用した場合は発汗量が増加することが確認されました。汗をかきやすい体に変化した、すなわち暑熱順化が起きた可能性が示唆されました」(図4)。

マイクロバブ イメージ

 「マイクロバブの2週間継続使用により、冷えやだるさ、肩凝り、腰痛、寝つき・目覚めの悪さといった悩みが有意に解消されることを試験参加者のアンケートで確認しています。暑熱順化による体質変化が、体調を“健康側”にシフトさせたのではないかと考え、現在、メカニズムの解明を進めています」。

図4:「マイクロバブ」の継続使用で暑熱順化が起こっている可能性

データ提供:花王
※超微細発砲入浴剤は「マイクロバブ」

入浴で簡単に増やすことができるHSPとは?

 講義の最後には、『日経ヘルス プルミエ』前編集長で健康美容情報認定の講師を務める西沢邦浩さんが参加し、入浴の健康効果に関するディスカッションが行われました。西沢さんは、体を温めたときに体内で産生が増えるたんぱく質・ヒートショックプロテイン(HSP)がもたらす健康効果が次々に解明されている、とエビデンスを基に説明。
 「体内でHSPが増えると、疲れにくくなる、免疫力が高まる、糖尿病患者の血糖値が下がるなどの効果があることが分かってきています。入浴は一番簡単に HSPを増やす方法。体温が38℃くらいに上昇するまで入浴すると、その1〜2日後に、HSPの産生量は大幅に増加します」。
 「肌に良い働きをするHSPの一つが、HSP47です。肌に適度な温熱刺激を与えると、HSP47が増え、その刺激により、線維芽細胞でコラーゲンの合成が高まることが分かっています。また、肌にはTRPVという温度センターがあり、38〜40℃くらいで肌を温めるとTRPV3が働いて、肌のバリア機能を回復してくれます」――。

 ちなみに受講生から最も多く寄せられた質問は「入浴剤の泡が消えても効果が持続するのか?」。これについて「よく聞かれる質問です。泡が出ている間は、炭酸ガスがお湯の中に溶け込んでいる最中で、全部溶けることによって有効な炭酸ガス濃度に達します。泡が消えてから約2時間は血管拡張作用が維持されることを確認していますので、私たちは『1時間半〜2時間以内の入浴が効果的です』とすすめています」と工藤さん。泡が消えてからのほうが炭酸ガスは効くとのこと。目からウロコです。

 炭酸ガス入浴剤の知られざる秘話と入浴の科学にじっくり“浸った”90分間。受講生の皆さんは、日本人が古くから愛してきた「入浴」の素晴らしさに、改めて気付かされたようでした。

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