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機能性素材「プロテオグリカン」で地域活性化、青森県 人材育成がマーケティング、ブランドマネジメント強化の鍵 [11月5日]

 弘前大学、青森県を中心に開発が進むサケ鼻軟骨由来の機能性素材「プロテオグリカン」。今年7月には、弘前大が蓄積してきたプロテオグリカンの大量精製技術を活用して、機能性食品や化粧品、医薬品等への事業化を加速する計画が、文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラムに採択された。 プロジェクトディレクターとして同プログラムの事業統括を担当する21あおもり産業総合支援センターの阿部馨氏(写真)は、「弘前大を中心に蓄積されたプロテオグリカンに関する技術力、研究開発力は高い。一方、それを事業化に結び付けるノウハウや仕組みが弱かった」と指摘。その上で、「今回のプログラムでは、プロテオグリカンの臨床応用や構造解析といった研究開発に加え、地域でマーケティングやブランドマネジメントを担う人材を育成。研究から事業化までのノウハウを強化し、地域産業を活性化させることを大きな目標としている」と展望する。これらの人材を中核に、地元・県外企業との連携、青森プロテオグリカンの情報発信やブランド発信を積極的に推し進め、プロテオグリカンの事業化を加速する方針だ。

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 プロテオグリカンは、コラーゲン、ヒアルロン酸とともに、皮膚や軟骨などに広く存在する糖たんぱく質。保湿作用や抗シワ作用、たるみ改善作用といった美肌効果や、関節痛の緩和、軟骨代謝の改善といった関節への効果が確認されている。
 青森県では、プロテオグリカンの特性を生かして、地域産業の活性化に取り組んでおり、これまで県主導で、県外企業への素材プロモーションを重点的に進めてきた。ブランド価値や認知を高め、事業化を促進するためには、地元企業だけでなく、県外の大手企業の商品化が必要と判断したためだ。
 「ブランド力を高めるには、全国区の企業との連携が欠かせない。県外への情報発信を積極的に進め、大手メーカー、素材メーカー、メディア等への素材プロモーションを強化した。オープンイノベーションの考えのもと、プロテオグリカンに対する企業の関心を喚起していった」と阿部氏。
 同県が重視したのが、企業関係者との直接的なコミュニケーション。例えば、東京都内でカンファレンスを開催。企業関係者に対して、直接、地方発の有望素材としてプロテオグリカンを売り込んだ。弘前大の研究者や青森県の関係者が研究成果、取り組みを紹介するとともに、興味を持った企業とは後日、面談を設定。商品化に必要な実践的な情報を提供し、理解を高めていった。
 こうした取り組みが功を奏し、サントリーやファンケル、ドクターシーラボといった県外の大手食品・化粧品メーカーが相次いでプロテオグリカンを採用。今年6月には、弘前大を中心にした産官学連携による商品化への取り組みが評価され、イノベーションネットアワード2021において文部科学大臣賞を受賞した。
 青森県のプロテオグリカンのブランディング活動を担うのが、青森県、弘前大学などが連携して2011年7月に設立した青森県プロテオグリカンブランド推進協議会。「あおもりPG(プロテオグリカン)」ブランド認証制度を設置し、弘前大と青森県の地場企業である角弘(青森市)が開発した抽出技術で製造されたプロテオグリカンを推奨量配合した製品に、「あおもりPGマーク」を付与している(図1)。45企業団体が参加し、54商品(64アイテム)を認証している(2021年4月)。

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人材育成カリキュラムでノウハウを地域に還元
 「素材プロモーションやブランディングを通じて得られたことは、これまで地域が弱かったマーケティングやブランドマネジメントの手法や人的ネットワーク。今後は人材育成を通じて、こうしたノウハウや仕組みを実践・活用できる人的リソースを整備し、地方と中央のビジネス基盤の垣根を埋めていきたい。人材が育てば、地域資源を中心とした事業が自律的に軌道に乗りやすい」と阿部氏。
 すでに、大手化粧品メーカーや広告代理店などの専門家を講師に招き、人材育成に向けたカリキュラムを開発。商品開発やマーケティング能力を高める教育プログラムを提供している。(1)地域のビジネスイノベーションを先導するMOT(management of technology)思考人材(イノベーター)、(2)ビジネスモデルの創造や研究成果を効果的に産業利用できる人材(プロデューサー)、(3)国内外の多様な人とつながるオープンな人材(ネットワーカー)、の育成が目標。定期的な講座実施のほか、スポットで特別講習会や技術研究会なども開催し、「地域人材を底上げし、青森PGイノベーターの育成」(阿部氏)につなげる狙いだ。
 大学を中心に各地で地域資源に着目した研究開発が進む一方、事業化に悩むケースは少なくない。地域に閉じこもらずに、全国区の企業と積極的に連携し、得られたノウハウを地域に還元する青森県の取り組みは、事業化の仕組みを定着させ、地域産業を活性化させるモデルケースとして注目される。


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