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地域資源からグローバル健康素材へ 成長軌道に乗ったプロテオグリカン [2月17日]

 弘前大学、青森県を中心に開発が進むサケ鼻軟骨由来の機能性素材「プロテオグリカン」。2000年に弘前大学が抽出技術を確立したのを機に、地元企業の角弘が抽出プロテオグリカン原料の量産化に取り組み、県外企業とも連携しながら、事業化が進められてきた。  2012年以降、サントリーウェルネス、ファンケル、DHC、ダイドードリンコといった大手メーカーの採用が相次ぎ、コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン等と並ぶ大型の健康素材としての成長に期待が集まっている。  青森の地域資源として産声を上げた「プロテオグリカン」は、数ある地域資源開発の中でも最も成功しつつある事例といわれている。プロテオグリカンを成長軌道に乗せた要因、また、今後この素材を更に大きく成長させていくための課題とは何だろうか?

 鮭の鼻軟骨からプロテオグリカンを抽出する技術を弘前大学が確立した2000年頃、全国で地域資源の開発ブームが巻き起こっていた。他の地域でも地元の農水産物から機能性素材を抽出し、地元の大学等で研究が進められたが、プロテオグリカンのような成長軌道に乗ったケースはほとんど無い。こうした「成長実績」が評価され、プロテオグリカンのプロジェクトは、「イノベーションネットアワード2013」文部科学大臣賞を受賞、また、平成25年度~29年度の地域イノベーション戦略支援プログラム(文部科学省)に採択されている(関連記事)。

弘前大学と民間企業が主導した事業立ち上げ
 現在、本プロジェクトの総合調整機関「(公財)あおもり産業総合支援センター」で本プロジェクトのディレクターとなっている阿部馨氏は、「プロテオグリカンの研究で既に世界的なレベルにあった弘前大学の全面的な協力体制の下で、事業化にあたっては地元民間企業が主導して、原料素材の量産体制を確立できたことが大きな力になった」と弘前大学と地元の地元民間企業との協力体制が存在したことを評価する(関連記事関連記事)。
 プロテオグリカンの抽出技術を弘前大学が開発した際には、グラム当たりの費用が3千万円ともいわれたが、地元企業の角弘が、抽出のための量産設備に投資し、抽出原料の供給体制を構築した。現在この事業を担当する角弘、プロテオグリカン研究所の米塚正人所長は、「当時、プロテオグリカンにどの程度の可能性があるのか十分には評価できない状態でした。そうした中、設備投資を決断することは企業として勇気のいることでしたが、地元企業としては、素材供給の根元を押さること以外に役割が見いだせないと経営に投資を進言した」という。

 こうして抽出プロテオグリカンの量産体制は整ったが、需要者(販売先)を確保しなくては、事業は回らない。そこで、角弘は、化粧品メーカーや健康食品メーカーに幅広く販路を持つ一丸ファルコスと提携し、抽出原料の素材への精製と素材販売を依頼することになる。
 「残念ながら当社も含め県内企業には、化粧品、健康食品メーカー、あるいは医薬品メーカーが原料素材に要求する精製度に対応できる製造能力を持った企業はどこにもなく、市場に対応できるコストで先発優位性を狙うために、一丸ファルコスとの提携に活路を見いだしたわけです」(角弘、米塚所長)

 角弘が原材料の抽出製造を行い、一丸ファルコスが精製と素材販売を行うという提携関係を通じて、結果的にプロテオグリカンは一気に業界内での認知度を上げ、大手メーカーの連続採用へと繋がっていくことになる(関連記事)。
プロテオグリカンの事業を担当する一丸ファルコスの安藤一彦専務は、「プロテオグリカンのポテンシャルには以前から注目していた。弘前大学が世界的水準の研究をおこなっていて、医学部も含めて全学的な推進体制ができている点も他の地域素材には見られないことだった」と振り返る。
 化粧品、健康食品の分野では、近年、エビデンスが益々重要となっており、弘前大学のように医学部を持ち、その協力体制が得られていることは、人によるエビデンスの構築に道を開くという点で大きな強みになるといえるだろう。

魅力ある商品づくりが地元企業の課題
 この数年で、大手メーカーも採用する全国区の健康素材に成長しつつあるプロテオグリカンだが、一方で地域資源として青森の産業の発展にも寄与させたいという地元からの強い声も上がっている。
しかし、地元振興も大事だが、「先ずは、プロテオグリカンと自社の何を結びつければ商品価値を持つのか、地元は、もっと真剣に考える必要がある」と指摘するのが、弘前で醸造業を代々営むカネショウ(本社・青森県弘前市)の代表取締役社長、櫛引利貞氏だ。
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 櫛引氏は、青森県プロテオグリカンブランド推進協議会の会長も務め、プロテオグリカンを利用した地元振興プロジェクトのリーダー的役割を担っている。
 「プロテオグリカンという素材があるからといって、既存の商品にちょっと使って見る程度のことでは駄目だ。機能性の高い素材なのに、申し訳程度入れているだけでは、効果も体感できず、結果的には青森プロテオグリカンのブランド力を育てることにつながらない。プロテオグリカンを軸に魅力ある商品をどのように作るかが地元企業の課題」(カネショウ 櫛引社長)。

 カネショウでは、こうした考え方のもと、2012年、12月に黒リンゴ酢とプロテオグリカンを組み合わせた、飲む健康酢「女神の林檎」(写真)を商品化した。これは、長期樽熟成させた希少な「黒りんご酢」にプロテオグリカンを高配合したもの。通販チャネルでの販売が主体だが、消費者の評判が良いことから、三越伊勢丹新宿店など、東京の百貨店での取り扱いも始まっている。
megami.jpg 青森市の健康食品の製造・販売会社、ミリオンもプロテオグリカンを高配合した美容飲料「プロテオコラーゲン」(写真)を昨年末、発売した。これは、ドリンクタイプのコラーゲン飲料にプロテオグリカンを25㎎、リッチタイプには50㎎を配合したもの。ミリオン 代表取締役専務、柴田浩一朗氏は、「自社通販に加えて美容院やエステなど、商品の付加価値をしっかりと伝えられるチャンネルを通じて、息の長い商品としてじっくり育てていきたい」と抱負を語る。

proteocol.jpg ミリオンは、青森を拠点に健康食品の流通・販売を手がける販売会社であったが、県内企業で初めて健康食品メーカーとしての機能を持つようになった。青森県には、プロテオグリカンをはじめ、にんにくや山芋など、健康に良いといわれる地域資源が多数あるにも関わらず、その製造・加工は、県外の企業がおこなってきたという。ミリオンが、滅菌処理、粉末化、打錠などの健康食品の製造加工に必要なプロセスを担えるようになったことで、様々な相談が持ち込まれているという。

丸の内・プロテオグリカンフォーラム2014を開催
 青森県などが志向しているのは、プロテオグリカンを軸に津軽圏(弘前エリア)において「健康(ヘルス)&美容(ビューティー)」関連産業クラスターを形成・育成するというもの。
 しかし、「そのことは、青森県内企業の利益のみを考えたり、青森県内で小さくまとまれば良いという意味ではない。どんどん事業連携の輪を東京や海外の企業にも広げていく必要がある」とプロジェクトが外に向かって開かれる必要性を(公財)21あおもり産業総合支援センターの阿部馨ディレクターは指摘する。
 日本では、バイオクラスターと称する計画が、全国各地に乱立したが、残念ながら「クラスター」の名にふさわしい産業集積を実現できた地域は未だ無い。それは地域振興という視点があまりに先行して、地域や自治体の枠を越えられず、小さくまとまってしまったからだとも言われている。だが、プロテオグリカンという素材は、既に国境を越えて、海外の市場からも高い関心を集めつつある。県内企業も本格的な商品開発に取り組み始めた。プロテオグリカンの成長軌道に合わせて、こうした動きが組み合わされていけば、新たな産業クラスターの構築も夢ではない。

来る2月21日(金)、東京で「丸の内・プロテオグリカンフォーラム2014」が開催される。
これは、青森県、弘前大学、(公財)21あおもり産業総合支援センターが主催して、健康食品、化粧品メーカー、マスコミ関係者などを集めて、プロテオグリカンの最新の研究成果や事業化の事例を紹介するというものだ。

著者:テクノアソシエーツ 加藤芳男

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