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コラム第5回
 

お肌にぬくもりを与えただけでも、潤いがアップするって本当?

[ 2010年9月15日 ]


[ 筆者 ] 西沢邦浩
日経BP社プロデユーサー
「日経ヘルス」「日経ヘルスプルミエ」前編集長


[ 関連キーワード ]

美肌、ぬくもり、ヒートショックプロテイン、オキシトシン、タクティールケア


 本当です。

 肌は、冷たい温度にさらしたり、ゴシゴシこすったりという強い刺激をあまり喜びませんが、逆に、ぬくもりを与えたりやさしくなでるといったソフトな触れ合いは、ことのほか喜びます。
 小さい頃、お母さんが温かい手で頬に触ってくれたときのぬくもりや安心感はいくつになっても、忘れられないのでは? また、とても不安なときに、親しい人に手をつないでもらっただけで、スーッと心のおりが取れていくような経験をしたことはありませんか?
 治療することを「手当て」ともいいますが、その字義通り、温かい手を肌に当てたりなでたりすると、肌のバリア機能が回復したり、痛みが和らいだり、心が落ち着いたりすることが科学的に証明されてきています。


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 肌のバリア回復能が最も高くなるのは38℃くらいの温度で温めたとき(図1)。体温よりやや高いくらいの温度ですね。これより温度が下がっても上がってもバリア機能は低下するそうです。肌にはTRPVという温度センサーがあります(38℃くらいの温度に反応するのがTRPVの3)。これらのセンサーは肌に触れるものの温度に合わせて、体がするべきことを判断しているんだそうです。
 また、体温が“ぬくもり温”(38℃)になるように体を温めると、体の中でヒートショックプロテイン(HSP)というたんぱく質がつくり出されて、傷んでその役目を果たさなくなったコラーゲンやエラスチンを排出し、新しい組織によみがえらせることが分かってきています。つまり、肌のスプリングにあたる組織を丈夫にしてハリをアップしてくれるんですね。


図1:バリアの回復が“人肌”の温度で早くなる
図2:バリアの回復が“人肌”の温度で早くなる  
腕の皮膚表面にテープを張ってはがし、角質が乱れた状態に、34℃から42℃まで2℃刻みの温度のパッドを1時間張った。1時間後の回復率をみると、何も張らなかった場合に比べ、34℃と42℃ではバリアの回復が遅れた。ところが体温に近い36℃と38℃と40℃でバリア回復率が早まった。

※データ:
Journal of Investigative Dermatology,doi: 10.1038,2006
※日経ヘルス 2007年1月号に掲載


 では、これくらいの体温にするには、どんな入浴をすればいいんでしょうか?
 正解は、40℃くらいのお風呂に20分くらい、ゆっくりつかること。
 「シャワーじゃだめなの?」。
 おすすめできません。なぜなら、どんどんお湯が体表面を流れ落ちてしまうため、体の芯まで温めるのが難しいからです。
 世界中でおそらく私たち日本人が一番好きな「湯船につかる入浴法」。これは、文化としてだけではなく、美容健康法としても世界に誇れる優れモノだといえそうです。


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 ここまで温度のことを書いてきましたが、「肌に触れること」についても知っておきたいことがあります。
 手を包みこんでやさしくなでたり、背中に温かい手の平を当ててゆっくりなでる――こうすることで痛みや不安感を和らげるケア法があります。それはスウェーデン生まれの「タクティールケア」という手法。語源の「タクティリス」というのはラテン語で「触れる」という意味です。この手法は、末期がん患者の痛みを和らげたり、認知症の進みを止める可能性を持つケアとして注目されています(図2)。
 肌がやさしくなでられると、オキシトシンというホルモンが分泌されます。すると、これが神経系に働いてストレスが緩和され、リラックスできたり、穏やかな気持ちになったりすることが分かってきています。
 触れ合い――相手を気遣い、思いやりながら触れ合う機会――が増えるだけでも、救われる人や未然に防げる殺傷はたくさんあるのではないか、そんな気がしてきます。


図2:集中治療室で治療する患者の不安感がタクティールケアで低下
図1:集中治療室で治療する患者の不安感がタクティールケアで低下

集中治療室の入院患者にタクティールケアを行ったところ、行わなかった群より不安感が有意に抑えられた。
※データ:Complement Ther Clin Pract;14(4):244-54,2008
※日経ヘルス プルミエ 2010年3月号掲載


 個人的な体験で恐縮ですが、鍼灸整体を深く学んでいる英国人に施術を受けていたことがあります。彼はこのような治療法を知らない欧米人に、鍼灸治療が意図することをできるだけ正しく伝えたいと、いつも分かりやすい表現を工夫していましたが、ある日彼から聞いたお灸に関する説明は、それまでに聞いたなかでもっとも腑に落ちるものでした。 彼はこう言ったのです。
 「ミスター西沢。私にはあなたの体の中で気や血の流れが悪くなっているところまではわかる。だからそこに灸を据える。しかし、そこから先はあなたの役割だ。どんどん温度が上がってくる“悪い場所”に集中することによって、自然とあなたは自分の気を悪い場所に集めることができる。これが自己治癒力を発揮するということだ。だから、お灸を置かれた瞬間から無心になってその場所に集中しなさい。いわゆる手当ての意味もこういうことだと私は思っている」。
 手当ての力をしっかり受け止めるためには、それに応えるセンサーが鈍っていないことや身体感覚も必要なのです。


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 人が美しく健康に生きるために最も必要なものの一つ――それが、ぬくもりと触れ合いです。ネットを通して大量のコミュニケーションが行われ、平然とトゲトゲしい言葉が投げつけられたり、場合によっては、触れ合いのない無機的な場所に無責任な発言者まで参加して“炎上”という現象が起こる。
 生々しく人と触れ合うことを極力減らしながら、溢れかえり止まることのない情報流通が一層加速されつつある今。私たちの体が心地よいと思う“something good”に触れる機会も減りつつあるのではないでしょうか。
 “感じる体”としての機能が衰えたとき、ヒトは意志や感情をスムーズに伝えあうことができるのでしょうか? 身体感覚なくして、真に心を通わせることはできるのでしょうか?

 私たちは「健康美容情報認定講座」を通して、このようなヒトの本質という領域にも、踏み込んでいけたらいいな、と思っています。



【 筆者紹介 】

西沢邦浩

西沢邦浩(にしざわ くにひろ)
日経BP社 プロデューサー
1961年長野県生まれ。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として『日経エンタテインメント!』創刊や、マイクロソフト社との共同事業『日経BPソフトプレス社』の創業などに携わる。98年『日経ヘルス』創刊と同時に副編集長に着任。2005年1月より同誌編集長。2008年3月に『日経ヘルス プルミエ』を創刊し、同誌編集長を務める。2010年7月より日経BP社プロデューサーと関連会社(株)テクノアソシエーツ、ヴァイス・プレジデントを兼務。
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