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犯人は誰か?~「安全性」のトリック [11月4日]

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 長く薬事法務コンサルティング業務を行っていると、様々な問い合わせを受ける。お客様より、「子供がベビー用化粧品を食べてしまった」という問い合わせがあったが、どのように対応したら良いか?「以前に同様の化粧品を使ってアレルギーが出たことがあるが、この化粧品は大丈夫か?」との質問に、どう対応すべきか?当社のオーガニック化粧品を購入して使用したところ、発疹が出て、病院に行って治療を受ける羽目になったという外国人から慰謝料を請求されている。どのように対応すべきか?販売店から連絡が入り、お客様が使用期限を越えた製品をお持ちになり、「これは使用期限を越えても安全に使用することができるか?」と質問されたという。どのように回答すれば良いか?

 上記のように、「安全性」に関する質問は後を絶たない。それだけ、消費者は安全性に対する関心が高く、不安がある場合にはその責任の所在を明らかにしたいと考える、ということだ。

 そもそも、化粧品に安全性の保証は担保できるのか?
答えはNoである。これは表示広告の通知からも明らかである。

 もう一度、明記する。
 「化粧品の安全性は保証できない。」
 Aさんが快適に使用できる製品であっても、Bさんには使用できない可能性もある。この、「少しでも安全に使用できない」という可能性があれば、「その製品の安全性は担保されている」という主張は決してできない。

 推理小説ではミスリード(※)する文章がしばしば登場する。
探偵が推理をする際に、犯人をにおわせる人物Aが登場し、実はその人物Aは真っ先に殺されるといった典型的な流れであるが、薬事法務でもミスリードする記述、表示がしばしば見受けられる。
 「天然由来の......」、

 「無香料、無着色、鉱物油を配合しておりません......」、

 「赤ちゃんからお年寄りまで......」、

 「オーガニック認証取得の......」

 こうした言葉は消費者を迷わせやすい。

 「製品そのものが安全である」と直接訴求することができないから、安全性を暗示することにより消費者に手を伸ばさせる誘導表現にほかならない。もう一度冷静に記述内容を読み直せば、「安全である」とはひと言も書いていないのである。
 このように、広告表現は消費者をミスリードするように書かれていることも多いので、常に注意深く読む必要がある。安全性の評価は消費者自身にゆだねられているのだ。
 当事務所に寄せられるトラブルの多くもこのミスリードが原因だ。ミスリードを促す業者の訴求広告を信じた消費者が、自身が期待したものとは乖離した結果に対してクレームを行うケースが多い、と言っても過言ではない。

 安全性は「様々な根拠」から推理し、犯人当てのように自ら確信をつかむほか術はない。様々な根拠とは、時として、製品に表記された全成分表かもしれない。あるいは、過去に自分が使用した化粧品の使用感との比較かもしれない。しかし、ほかの人にとって安全であることが自分にとっての安全性保証にならない場合もあることを考えると、パッチテスト(1章の「今回の教訓」参照)の結果を待つ以外ない、ともいえる。

 我々の身の回り、特に化粧品や健康食品など、美容健康に関する表示広告では落とし穴が少なくない。

 今、消費者には冷静沈着な購入選択が求められる。
(第2章 完)

【今回の教訓】
 広告表現では、その商品が本当に安全かどうかはわからない。
 また、「安全っぽく」見せる表現も多いので注意を。
 化粧品なら、やはりパッチテストなどを行ってみるまでは本当に自分にとって安全かどうかはわからない。


(※)ミスリード【mislead】(名)スル
  ① 誤った方向に人を導くこと。
  ② 新聞・雑誌などで、見出しと記事の内容が著しく異なっていること。
  『大辞林』(三省堂)より

著者:吉田武史(よしだ・たけし)

一般財団法人日本薬事法務学会理事長、吉田法務事務所代表、行政書士、薬剤師

東京理科大学薬学部在学中に行政書士の資格を取得し、吉田法務事務所を開業。卒業と同時に薬剤師の資格も取得し、薬事許認可業務の代行申請、コンサルタント業務に従事。医薬品法務、化粧品法務、健康食品法務などを専門とし、現在は、薬事法専門の法務家として、国内外で業務を展開。講演会、執筆活動も精力的に行う。
(「化粧品と食品をめぐる表示・表現の規制を知る」を監修)

著者:吉田武史(よしだ・たけし)

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