ニュース&コラム

Kenbiニュース

次世代インフルエンザワクチンのカギを握る自然免疫と腸内細菌
感染阻止を目指し、経鼻ワクチンの開発進む [10月26日]

イメージ

 「これまでのインフルエンザワクチンでは、重症化を防ぐことができても、感染そのものを阻止することはできない。次世代ワクチンとして初期感染を防ぐ可能性がある経鼻ワクチンの開発を進めており、現在、ヒト臨床試験を進めている」。国立感染症研究所感染病理部の長谷川秀樹部長(写真)は、さらに「経鼻ワクチンの効果を高めるために、体の自然免疫と腸内細菌の役割は大きく、このバランスをとることも重要」とし、そのための健康食品への期待を語った。
 2011年10月5日、『食品開発展2011』で開催されたTTC(東京都渋谷区)主催のセミナー「機能性食品の有用性探索の道しるべ」において「インフルエンザ:感染応答と新しい防御法」と題して発表された長谷川部長の講演から、次世代インフルエンザワクチンの方向性と食品成分の可能性について報告する。

現在のインフルエンザワクチンには限界が
 毎年のように流行を繰り返すインフルエンザ。2009年には新型インフルエンザが発生し、東南アジアを中心に高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染も続いている。流行を防ぐために重要な役割を担うのがワクチン。感染前にワクチンを接種しておくことで、体内で抗体が産生され、いざ感染した時にウイルスの毒性を中和してくれるからだ。
 ところが、「現在の注射によるインフルエンザワクチンは、血中に抗体を誘導するが、ウイルスが初期感染する鼻や喉の粘膜上に誘導することはできない。そのため重症化は予防できるが、感染そのものを防ぐことはできない」。また、「インフルエンザウイルスは毎年変異する。現在のワクチンは、その年に流行するウイルスの型を予測して作られているが、製造には最低半年かかり、予測が外れた場合は効果が低い。さらに予測自体が不可能な新型インフルエンザには対応できない。そこで、より効果的なワクチンの開発が望まれている」と指摘する。

求められる次世代ワクチンの開発
 長谷川部長が次世代ワクチンとして注目しているのが、注射ではなく、鼻から投与する「経鼻ワクチン」だ。その狙いを、「注射でなく、鼻からワクチンを投与し、鼻や喉の粘膜に抗体を産生することができれば、インフルエンザウイルスの初期感染を防げる可能性がある。さらに、粘膜上で誘導される抗体(IgA)は、血中抗体(IgG)と異なり、変異したウイルスに対しても防御効果を持つ特徴(交叉防御能という)があるので、予測不能な新型インフルエンザにも対応できるだろう」と話す。
 すでに、マウスやサルを用いた実験では感染防御効果を確認したほか、ワクチンに使ったウイルスと違う型のウイルスにも高い効果、すなわち交叉防御能があることが示されている。「マウスを経鼻ワクチン接種、通常ワクチン接種、ワクチン無しの3群に分け、ワクチンに使用した高病原性のH5N1インフルエンザウイルスに感染させ、鼻腔内のウイルスの数(ウイルス価)を測定すると、通常ワクチン群はコントロールの10分の1低下程度だったのに対し、経鼻ワクチン群ではウイルスが全く認められなかった。つまり、感染そのものを防御していることが確認された。また、ワクチンと異なるウイルスに感染させた場合、経鼻ワクチン群は、他の2群と比べ高い生存率を示した。変異しやすいインフルエンザウイルスに対しても、高い防御効果を発揮する可能性がある」。現在、ヒト試験も進行中で、1日も早い実用化が望まれている。

免疫を高める物質と「腸内細菌」

 「実用化のポイントの1つは、いかに粘膜上で抗体産生を誘導させるかにある」(長谷川部長)。
 長谷川部長が開発を進める経鼻ワクチンは、死んだ細菌やウイルスの一部などを利用する不活性化ワクチン。生きている病原体を使う生ワクチンと比べ、安全性は高いとされるが、免疫応答が弱い。そのため免疫応答を増強させる"アジュバント"と呼ばれる物質が必要になる。
 「今年のノーベル生理学・医学賞の授賞対象にもなったが、外部からの病原体の侵入を感知するシステムとして、トール様受容体(Toll like receptor;TLR)が生体には備わっている。いくつかの種類が確認されており、TLR3と呼ばれる受容体は、ウイルス感染によって産生される二本鎖RNAを認識し、免疫を誘導する。さまざまなアジュバントを検討したが、自然感染時の免疫の仕組みに近く、ヒトで使用実績のある二本鎖RNAを採用した」と話す。
 次に、長谷川部長が免疫応答を増強させるアプローチとして挙げたのが腸内細菌。「ある種の抗生物質を投与されたマウスでは、インフルエンザウイルスに感染したときの粘膜や血液中の免疫応答が著しく低下し、腸内ではグラム陰性菌の比率が高くなっていた。グラム陽性菌の比率が高い場合は、免疫応答がきちんと誘導されることも確認されている。腸内環境を整えることが、免疫を考える上で重要なアプローチとなりうることが示唆されており、食品成分による貢献も期待できる」とした。

エビデンス開発&マーケティングをテーマにしたセミナーを開催
 このように、研究の進展により、インフルエンザをはじめとする疾患の予防や健康の増進、美容における食品の役割や機能性が明らかになってきている。消費者の食品や化粧品に対する期待値が高まる中、全国の企業や大学、自治体などで、食品や化粧品、またこれらに配合される成分の機能性研究が盛んに進められ、エビデンスのある食品やサプリメント、スキンケア化粧品などが開発されている。
 そこで、"エビデンスに基づく正しい健康美容情報の提供"を行ってきた『日経ヘルス』、『日経ヘルス プルミエ』のノウハウをカリキュラム化した健康美容情報認定講座が主体となり、このたび、エビデンス開発およびマーケティングをテーマにしたプロフェッショナルセミナー「健康&美容のエビデンス開発とマーケティング動向」を、2011年12月16日(金)に開催する。
 食品や化粧品のエビデンス開発で多くの実績を誇るTTC代表取締役社長の山本哲郎氏や、専門記者として機能性食品業界を長年ウォッチしてきた『日経バイオテクONLINEアカデミック版』の河田孝雄編集長などを講師に招き、「エビデンスの捉え方」「エビデンス開発の進め方」を整理するとともに、具体的な開発事例を通して、エビデンス開発およびエビデンスマーケティングの現状およびポイントを紹介する。
 詳しくはこちらまで。

著者:テクノアソシエーツ 笹木雄剛

関連ページ

page top