Kenbiコラム
第10回
妊娠したらダイエットを心がけて、太らないようにするのが赤ちゃんにもいい? [1月28日]
- ×。太りすぎるのもよくありませんが、過剰なダイエットは控えましょう。
- 妊娠時の栄養状況が悪く、2500g未満の低体重で生まれると、その赤ちゃんは将来、生活習慣病などを発症するリスクが高くなると示唆されています。かつて子供は「小さく産んで大きく育てる」のがいい、とされていました。お産自体のリスクも高かったので、母体に影響が少ないよう、子供は小さく産んで大きく育てるほうがいい、という言い伝えです。それがある時期から、妊娠中も見た目がよく、子供を生んだ後すぐにスッキリした体形に戻れるためにも「小さく産むのがいい」という意見まで出てきました。その結果、日本は今、OECD諸国(いわゆる先進国)中で、低体重で出生する赤ちゃんが最も多い国の一つになっています。
では、なぜ、小さく生まれてしまった赤ちゃんの疾病リスクが高くなってしまうのでしょう?
お腹の中の赤ちゃんは、へその緒を通してお母さんから栄養をもらって育ちます。ところが、お母さんの栄養状態が悪いと、赤ちゃんにも十分な栄養が届きません。その結果、お腹の中の赤ちゃんは栄養が少ない状況でも成長できる体質――エネルギーをため込みやすいように遺伝子が変化(専門的にはエピジェネティクス変化といいます)――を獲得します。
食糧不足の時代だったら、このような赤ちゃんの体質は生存に有利に働きました。ところが、赤ちゃんを待っているのは、生まれるやいなやたっぷりミルクを与えられ、その後もお腹一杯食事が食べられる"飽食社会"。
つまり、お腹の中とはまったく正反対の――高栄養・高カロリーの食事――が始まるわけです。このように胎生期に得たエネルギーをため込みやすい体質ゆえに、脂肪としてエネルギーを蓄積しやすく、その結果、将来、メタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病にかかりやすくなってしまう、と考えられています。
これは成人病胎児期発症起源説(バーカー仮説)と呼ばれ、疫学研究や動物実験などを通じて立証が進んでいます。妊娠マウスを、通常の栄養状態と低栄養状態(餌を通常量の70%に制限)の群に分け、出生した仔マウスを比較すると、通常群と比べ低栄養群では、
・満腹だという情報を脳に伝えるレプチンというホルモンに対する反応が鈍く、摂食抑制が見られなかった
・高脂肪食を与えた場合、高度の肥満となった。また、エネルギー消費量の目安となる酸素消費量や、体温上昇が認められなかった
ということが、確認されています(Cell Metab;1,371-8,2005)。
今、日本で生まれる赤ちゃんのうち約10%が、低栄養状態で育った低出生体重児(出生体重2500g未満児)。これはOECD加盟国中でもトップクラスであるばかりか、日本の戦後すぐの値よりも高いのです。背景に、妊娠可能年齢の女性のダイエット志向や、喫煙率の上昇などが挙げられています。
最近新たに、厚生労働省が「低体重で生まれた女の赤ちゃんは、将来、妊娠糖尿病になるリスクが6倍」という研究を発表しました。妊娠糖尿病の女性から生まれた赤ちゃんは将来、糖尿病や肥満になりやすいことが分かっています。
つまり、低体重で生まれた赤ちゃんは、本人が生活習慣病にかかりやすいだけでなく、さらにその子供にまでリスクが及ぶというわけです。
ちなみに生まれてくる子の父親となる男性にも、栄養管理に気を付けてもらわなくてはならないようです。これはマウスを用いた研究ですが、父親マウスを低栄養(低たんぱく食)で育てると、生まれてくる仔マウスの、コレステロール値や体脂肪量を制御する遺伝子に変化が起きるという研究成果も、先ごろ発表されました(Cell;143,1084-96, 2010)。
生まれくる子だけでなく、さらにその先の子孫の健康を考えても、これから赤ちゃんを授かりたいお母さん、お父さんは、ともに十分な栄養をとるのがいいようです。
もっとも、妊娠中に太りすぎるのが良くないのも事実。肥満が誘引の一つとなる妊娠糖尿病になると、先に述べた通り、赤ちゃんも将来糖尿病や肥満になりやすくなるからです。
「妊娠なんてまだまだ先のこと」と思っている人も、子孫の健康のために、妊娠時の正しい栄養管理について、正しい知識を持っておきましょう。
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